これまで研究が報告されている並列GAの最適化問題は, 対象問題に存在するさまざまな 評価基準を一つの最適化関数すなわち適応度に縮約している. このアプローチは多く の問題で成功を収めてきたが, 複数の評価基準をまとめることができない, あるいはま とめることが不適当である問題もある. このように複数の評価基準を持つ問題を多目的 最適化問題(multiobjective optimization problem) と呼ぶ.
通常の最適化問題では単に関数の最大(最小)値を探索すれば良い. 一方, 多目的最適化 問題では複数の評価基準を同時に最適化する必要があり, それらは互いに比較不可能で あることが最大の特徴である. また, すべての評価基準を同時に最適化するような解は, 一般には存在しない. このような異質な評価基準を統合するための概念としてパレート 最適性 (Pareto optimality) がある. パレート最適解は数学的に厳密に定義さ れているが, 概念的にはすべての評価基準を同時に良くなるような解が存在しない解の ことである.
パレート最適解の典型的な例を示す. ある仕事を行なうときに, そのやり方がパラメー タベクトル で調節できるとし, そのリスクとコストがそれぞれ関数 , で表されるとする. 一般にリスクとコストは相反する関係 にあり, これらを同時に最小化することはできない. この問題のパレート最適解は図 5.12に示すような, 有効解領域の境界線として表される. すなわ ち, リスク(コスト)を固定したときに, それ以上コスト(リスク)を小さくする解が存在 しない解の集合である.
図5.12 パレート最適解
次に多目的最適化問題の数学的な定義を与える. 多目的最適化の目的関数 は, 定義域 の n-次元ベクトル から p-次元ベ クトル へのベクトル値関数であり, を最小化するベクトル を発見することが目的である.
一般的に多目的最適化問題においては複数の(スカラ)目的関数にトレードオフの関係が 存在し, これらのバランスをとりながらそれぞれの目的関数を最小化する.
トレードオフをバランスさせる解の概念としてパレート最適解がある. 直観的には, 「パレート最適解 とは, と比べてすべての目的関数を同時に良く するような実行可能解は存在しない」ことをいう. ここで, が に優越するとは,
であり, ある に優越する , が存在しな いとき, はパレート最適解である. 一般にパレート最適解は多数または無 限に存在する.