グラフ5.21 は右上がりのグラフであり, 1世代に会話をす る量が多い方が着実に学習していることが伺える. 逆に, 1世代での会話数が少 ないケースではヒット率が非常に不安定であり, 会話が高い確率で成立する世 代もあるのだが, 次の世代もそうとは限らない. このケースは, とても学習効率 が良いとはいえない. この理由は, 適応度の点数づけが遺伝的操作に大きく影響しているということ である. 適応度は発話をする側は,
図5.20: 4エージェントの世代ごとのヒット率の変化(1)
図5.21: 4エージェントの世代ごとのヒット率の変化(2)
学習による言語獲得の実験において, 以下の2つを学習によって実現すること を期待すると述べた.
[*read:([obj]:*book)([agent]:*you)] anata c-a hon c-o yomu [subst:NP [agent] -] (NP[agent] (N [agent])(C (c-a ))) [subst:N [*] *you] (N[*] (anata )) [subst:NP [obj] -] (NP[obj] (N [obj])(C (c-o ))) [subst:N [*] *book] (N[*] (hon )) [verb:*read(obligate:[obj][agent])(optional:)] (S (NP [agent])(VP (NP [obj])(V (yomu ))))これは日本人エージェントが外国人エージェントに対して会話をした例であり,
[*read:([obj]:*book)([agent]:*you)]をもとに文生成をし,
anata c-a hon c-o yomuという文を発話し, 外国人エージェントに認識されているということを意味し ている. 文中に出現する``c-a'', ``c-o''は進化した格マーカであり, 日本語の「は」及 び「を」を「翻訳」 という形で変換し, 外国人にも通用する共通の格マーカへと進化した. ちなみにその他のS式等は文生成に用いた文法である. 逆に外国人エージェントが日本人エージェントに対して会話をした例を以下に 示す.
[*give:([obj]:*book)([co-agt]:*I)([agent]:*you)] anata c-a watashi c-c hon c-o ageru [subst:NP [agent] -] (NP[agent] (N [agent])(C (c-a ))) [subst:N [agent] *you] (N[agent] (anata )) [subst:NP [co-agt] -] (NP[co-agt] (N [co-agt])(C (c-c ))) [subst:N [co-agt] *I] (N[co-agt] (watashi )) [subst:NP [obj] -] (NP[obj] (N [obj])(C (c-o ))) [subst:N [*] *book] (N[*] (hon )) [verb:*give(obligate:[obj][co-agt][agent])(optional:)] (S (NP[agent])(VP (NP [co-agt])(NP [obj])(V (ageru ))))これは
[*give:([obj]:*book)([co-agt]:*I)([agent]:*you)]をもとに文生成をし,
anata c-a watashi c-c hon c-o ageruという文を発話し, 外国人エージェントに認識されているということを意味し ている. 文中に出現する``c-c''は日本語の「に」に対応する格マーカである. これは外国人が日本人の語順及び格マーカを学んだという証拠である. 上のような例を見ると, まるで外国人エージェントが日本語を学んだだけのよ うにも見えるのだが,
[*go:([goal]:*school)([agent]:*I)] gakkou c-g go watashi c-a [adjoin:S [goal] -] (S (PP (N [goal])(P (c-g )))(S *)) [subst:N [*] *school] (N[*] (gakkou )) [subst:NP [agent] -] (NP[agent] (N [agent])(C (c-a ))) [subst:N [*] *I] (N[*] (watashi )) [verb:*go(obligate:[agent])(optional:[goal])] (S (VP (V (go )))(NP [agent]))という日本人エージェントの会話例のように,
gakkou c-g go watashi c-aという文を生成しているものもある. これは``*go''に関しては主格の位置が日 本語, 英語のどちらでもない文法に落ち着いてしまった例である. このように, ヒット率の上昇とは, 共通言語の獲得を意味している.