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共通文法獲得の実験

実験結果を示す. 上で指定したパラメータに対応する図を 表5.7 に示す.

table393

グラフ5.21 は右上がりのグラフであり, 1世代に会話をす る量が多い方が着実に学習していることが伺える. 逆に, 1世代での会話数が少 ないケースではヒット率が非常に不安定であり, 会話が高い確率で成立する世 代もあるのだが, 次の世代もそうとは限らない. このケースは, とても学習効率 が良いとはいえない. この理由は, 適応度の点数づけが遺伝的操作に大きく影響しているということ である. 適応度は発話をする側は,

また文を受け取る側は によって加点される. つまり, 適応度の値は, 文生成をするごと, パースするごとに変化するのである. 遺伝的 操作をすると, 遺伝子の適応度はまた初期値に戻ってしまうので, 本当に良い遺 伝子かどうかを知るためには, 長い時間をかけてじっくりと適応度を決めるべ きなのである. ただ やみくもに遺伝的操作をして, せっかく育った適応度を振り出しにするのはあ まり効率が良くはないということである.

figure409

図5.20: 4エージェントの世代ごとのヒット率の変化(1)

figure416

図5.21: 4エージェントの世代ごとのヒット率の変化(2)

学習による言語獲得の実験において, 以下の2つを学習によって実現すること を期待すると述べた.

これを得るためには3段階の学習が必要である.
  1. 自分のもつ文法とは異なる文法から生成された文をパースするために, ランダムに生成された遺伝子を評価して得られたでたらめな文法をパー スに用いることにより, それに対応した文法の適応度が上がる. ここではまず語彙が翻訳されているかが鍵となる.
  2. 適応度の高い遺伝子をもとに遺伝的操作がなされる. ここで語順が変化 する.
  3. 淘汰された遺伝子を評価することによって得られた文法を用いて発話 をしてみる.
(3)に行きつくまでには(1)と(2)を何世代か繰り返す必要がある. これを行なっ て生き残った遺伝子, つまり最も適応度の高くなった遺伝子を評価した文法が オリジナルの文法と入れ替わるわけである. 具体的に, 異国人エージェントに対して会話を行ない, 実際に認識された文を含 む表示例を以下に示す.
[*read:([obj]:*book)([agent]:*you)]
anata c-a hon c-o yomu 
[subst:NP [agent] -]
(NP[agent] (N [agent])(C (c-a )))
[subst:N [*] *you]
(N[*] (anata ))
[subst:NP [obj] -]
(NP[obj] (N [obj])(C (c-o )))
[subst:N [*] *book]
(N[*] (hon ))
[verb:*read(obligate:[obj][agent])(optional:)]
(S (NP [agent])(VP (NP [obj])(V (yomu ))))
これは日本人エージェントが外国人エージェントに対して会話をした例であり,
[*read:([obj]:*book)([agent]:*you)]
をもとに文生成をし,
anata c-a hon c-o yomu
という文を発話し, 外国人エージェントに認識されているということを意味し ている. 文中に出現する``c-a'', ``c-o''は進化した格マーカであり, 日本語の「は」及 び「を」を「翻訳」 という形で変換し, 外国人にも通用する共通の格マーカへと進化した. ちなみにその他のS式等は文生成に用いた文法である. 逆に外国人エージェントが日本人エージェントに対して会話をした例を以下に 示す.
[*give:([obj]:*book)([co-agt]:*I)([agent]:*you)]
anata c-a watashi c-c hon c-o ageru 
[subst:NP [agent] -]
(NP[agent] (N [agent])(C (c-a )))
[subst:N [agent] *you]
(N[agent] (anata ))
[subst:NP [co-agt] -]
(NP[co-agt] (N [co-agt])(C (c-c )))
[subst:N [co-agt] *I]
(N[co-agt] (watashi ))
[subst:NP [obj] -]
(NP[obj] (N [obj])(C (c-o )))
[subst:N [*] *book]
(N[*] (hon ))
[verb:*give(obligate:[obj][co-agt][agent])(optional:)]
(S (NP[agent])(VP (NP [co-agt])(NP [obj])(V (ageru ))))
これは
[*give:([obj]:*book)([co-agt]:*I)([agent]:*you)]
をもとに文生成をし,
anata c-a watashi c-c hon c-o ageru
という文を発話し, 外国人エージェントに認識されているということを意味し ている. 文中に出現する``c-c''は日本語の「に」に対応する格マーカである. これは外国人が日本人の語順及び格マーカを学んだという証拠である. 上のような例を見ると, まるで外国人エージェントが日本語を学んだだけのよ うにも見えるのだが,
[*go:([goal]:*school)([agent]:*I)]
gakkou c-g go watashi c-a 
[adjoin:S [goal] -]
(S (PP (N [goal])(P (c-g )))(S *))
[subst:N [*] *school]
(N[*] (gakkou ))
[subst:NP [agent] -]
(NP[agent] (N [agent])(C (c-a )))
[subst:N [*] *I]
(N[*] (watashi ))
[verb:*go(obligate:[agent])(optional:[goal])]
(S (VP (V (go )))(NP [agent]))
という日本人エージェントの会話例のように,
gakkou c-g go watashi c-a
という文を生成しているものもある. これは``*go''に関しては主格の位置が日 本語, 英語のどちらでもない文法に落ち着いてしまった例である. このように, ヒット率の上昇とは, 共通言語の獲得を意味している.



Mitsubishi Research Institute,Inc.
Mon Feb 24 19:32:21 JST 1997