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背景
本説では, 本研究の目的である分散システムの頑健性の背景知識を述べる.
構成としては, 前半で分散システムの利点, マルチエージェントシステム
の紹介を行った後, 本研究の基となった診断エージェントを持つエージェント
の協調による分散診断[18]を紹介し,
後半で分散システムの故障形態の紹介する.
近年, コンピュータ処理の大規模化に伴い, 従来の集中型のシステムでは, 負
荷集中による処理効率の低下, システムの頑健性の低下等の弊害が生じている.
そのため, 従来の集中型システムから, システム全体の負荷を分散させ耐故障性の向
上につながる分散型システムへの移行が進んでいる.
分散型システムの利点をまとめると以下のようになる.
- 負荷分散:
- 分散システムでは, 負荷がシステム全体に分
散されることから, 処理の時間短縮が期待でき, より複雑で大量な仕事
が可能となる.
- 冗長性:
- 分散システムでは, 複数な場所で同じ処理が可能なため,
システムの部分的な故障に対して頑健性を持つ.
- 分散要素の独立性:
- 分散システムでは構成要素の独立性が高くなる.
そのため, システムの透過性が増し, 故障場所の特定や, システムの拡張
性が高くなる.
分散型システムを実現するための理論の研究の一つに分散人工知能とマルチエー
ジェントがある. 上で挙げた利点は, これら二つの枠組に共通するものである.
分散診断システムにおける診断モデルとは次のようなものである.
各診断エージェントは, 原因推論のために診断モデルを持っている. 診断モデ
ルの定義は以下のようになされている.
診断対象の設計知識を用いて事象間の因果関係を導出し, 原因
結果(図5.22左)形式の知識を作成し, これを基に根には異常原因(A), その異常が引き
起こす中間現象(B, C), そして最終的に現れる異常兆候(D, E, F, G, H)とい
う構造をもつ原因木を作成する. (図5.22右)
原因木は全てAND木で定義されている. 一般に原因木では, AND関係だけでなく
OR関係やXOR関係も考えられるが, ORは木を分割すればよく, またXORはAND
とNOTで表す事が可能である.
診断モデルの葉はセンサーからの数値情報そのものではなく, センサー情報を
知識ベースで変換したものである. たとえば, 温度センサー情報から入力デー
タが時間とともに増加している場合, それらの情報は知識ベースによって
「温度上昇」と置き換えられる. 診断モデルの葉にはこのようにして得られる
現象が置かれている.
図5.22: 推論規則による診断モデル
システムの概要は以下のようになる.
- 診断対象は, プラント, 分散OS, 通信システム, 交信システム等.
- 各構成要素毎に, 1エージェントが監視する.
- 診断エージェントは, センサー情報を解析する知識と, 異常原因を推
論する診断モデルを持つ. 診断モデルは, 根が原因, nodeが中間現象, 葉
が異常兆候を表すAND木である.
- センサー入力は数値データ. 入力情報はセンサー入力だけでなく, 診
断の材料になるものならなんでもよい.
- 各診断エージェントは互いに通信が
可能.
- 各診断エージェントは複数の診断モデルを保持している.
- 推論は事象駆
動型の仮説推論[19]として行われる. 結果として
出力されるのは, 原因に対してどれだけの割合の異常兆候が検出されたか
である.
診断エージェントを各センサー毎に分散させて設置することで, あるセンサー
やエージェントが故障や保守休止していても, 残されたエージェントで一定
精度の診断が実行できることが示されている. このことは, 診断システム全体
の頑健性が大幅に向上したことを意味する. また, 各診断エージェントが局所
診断することで, 診断システムの仕様変更や拡張に関しては一部のエージェ
ントの知識を入れ換えるだけで対応出来ることになる.
結果として診断対象を構成要素に分割し, 構成要素毎に1診断エージェントを
設置するという試みは, システムの頑健性と柔軟性の向上をもたらした.
しかし, システムの頑健性という観点に立つと情報欠落にのみ対応していれば
良いというものではない. 提案する枠組が診断システムである以上, さらなる信頼
性向上が求められる. 次節では分散診断システムの頑健性向上の準備として,
分散システムの故障形態について述べる.
Mitsubishi Research Institute,Inc.
Mon Feb 24 19:32:21 JST 1997