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問題
ここで扱う診断モデルは, 文献[18]に習い,
根が異常原因, ノードがその異常が原因で
引き起こされる中間現象, 葉が最終的にセンサー等に現れる異常兆候を扱う.
これら現象の因果関係は診断の完全性を考えて, システムの設計情報から抽出
されたものとする.
また, 木はAND木とし各診断エージェントが持つ木は部分的なものとする.
診断モデルを持つエージェントの担当範囲を超えた現象は仮説という形で
木のノードに納められる. つまり,
各診断エージェントは検出された異常兆候から異常原因を推論するた
めに, どの異常兆候もしくは中間現象を仮説すれば良いかを知っている.
診断モデルの例を図5.23に示す. 図の矢印の左側が完成したモデルを示し,
右側が各診断エージェントの持つ部分的なモデルを示す.
点線で書かれた枝の先にある現象は仮説を表す. 図を用いてエージェントの
仮説推論過程を簡単に説明すると, 診断モデルS1-X4を持つエージェントが
異常兆候``out16=1"を検出したとする. このときエージェントは診断モデル
を用いて異常兆候``out9=1", ``out17=1"を仮説し, 異常原因``S1-X4"を推論
する. (ただし, 診断モデルがAND木であるため, 異常兆候``out9=1"と
``out17=1"の両方の否定情報が無い場
合に限りこの推論は成立する. )ここで仮説された異常兆候の成否は, その兆候
を検出できるエージェントの判断に委ねる事になる.
図5.23: 推論木による診断モデル
ここで問題設定は次のように行う. 以下に示す点は従来の枠組に習い, 文献
[18]の定義に従う事とする.
- 診断対象は, プラント, 分散OS, 通信システムなど, 個々の構成
要素が分散していて, 全体として1つのシステムをなしているものとする.
- 診断対象をセンサーで監視する. センサーからは部分的な情報しか得
られない.
- 各センサーには, プロセッサが接続されていて, センサー入力をロー
カルに保持している.
- 各プロセッサ上には, 診断エージェントが動作している. 各診断エー
ジェントは各々独自の知識ベースを持ち, 局所診断している.
- 診断モデル. 診断モデルは, 対象の設計情報を基に作成された,
根が異常原因, ノードが中間現象, 葉が異常兆候を示すAND木である.
- 各エージェントは, 複数の診断モデルを持つ事が出来る. 各エージェン
トの持つ診断モデルは各々独自なものであって良いので, 局所診断に必要
な診断モデルを中心に保持できる. また, 診断対象の部分的な変更に対し
て, 一部のエージェントの知識をいじるだけで対応できることから, シス
テムの柔軟性が期待できる.
- 事象駆動型仮説推論. 異常原因推論は, ある診断エージェントが
異常兆候を検出した後にはじまる. 推論形式は仮説推論で, 自身の担当
以外の現象を仮説し推論を進めて行く. 仮説された現象の成否は他のエ
ージェントの判断に委ねる事になる.
以下に示すものは本枠組で提案したものである.
- 診断エージェント間の通信は黒板と呼ばれる共通メモリを通して
行われる. ただし黒板は, 推論, 判断などの一切の処理を行わない.
黒板定義のためボトルネックに陥る可能性があるが, 本枠組では
黒板を用いることによる推論の収束性を重視し導入した. また, 各
エージェントが黒板をポーリングすることで, 全く知識の無いエージェン
トとも通信する事が出来る.
- 各診断エージェントは互いに診断し, 診断される相互診断の形を
とっている. 従って, 診断システム付加のパラドックス(診断システ
ムの診断システムを無限に定義しなければならないという)に陥ることな
くシステムの信頼度を高める事が出来る.
- 異常原因推論に非単調推論を導入したこと. 本枠組ではシステムの
頑健性を目指すために, 診断エージェントが誤情報を流す可能性を認めて
いる. 従って, エージェントの情報の誤りに対応して推論結果を修正する
機構, 非単調推論が必要となる. 本枠組ではデフォルト推論を用いた.
図5.24: システム概略図
図5.25は診断対象の論理回路である. 診断は入力値を全て0にして行われる.
論理回路は構成要素の異常伝播を比較的容易にシミュレートでき, また
, 設計情報からシステムの動作を完全に把握できるなど分散診断システムを試
すために必要な性質を持つ事から診断対象と
してふさわしいと判断した.論理回路の異常伝播の例を挙げると, 図5.25の論理回路
の入力値が全
て0でかつANDゲート1(図中A1)の出力線が1-縮退故障していると仮定すると, その
影響(ゲートの出力が1になる)は, X1, X2, X8, X9, O7, O8にまで伝播する.
各診断エージェントはそれぞれ論理ゲート診断を担当する. 担当エージェント
番号は, 各論理ゲートの出力線の番号と一致する. 例えばエージェント21は
出力線が``out21''であるORゲートO8を担当する.
図5.25: 診断対象回路
Mitsubishi Research Institute,Inc.
Mon Feb 24 19:32:21 JST 1997