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概要

本節では ABCL/f の応用実証研究課題としてマルチエージェントシステムにつ いての報告を行なう.

まず協調分散問題とは, 多数存在する仮想的な問題解決装置が協調あるいは競 合し, 特定の一つの問題の解決にあたるか, もしくは何かバランス状態 (ある いは組織化された状態) を構成する問題である. 個々の問題解決装置はその処 理能力が高く知能的であり, かつ能動的にアクションを起こすことができると き, しばしばエージェントという名前で呼ばれる. したがってこのような問題 解決機構をマルチエージェント・システムと呼ぶ. 個々のエージェントは 概念的には計算機の一つのプロセッサと考えることができ, 複数のプロセッサ から成る計算機, あるいは多数の計算機をネットワークで接続した環境でマル チエージェントシステムを実現することができる.

ここでは, マルチエージェントシステムの応用実証課題として, 言語獲得と分 散診断問題の問題を取り上げる. 第5.3.4節 言語獲得の 問題では, 互いに異なる文法セットを持ったエージェントどうしが発話を交 換し合ううちに, 自分の文法を改編しながら互いの言うことが理解(構文解析) できるようになる過程をシミュレートする. これは, 自然言語の文法が規制で はなく統計現象に過ぎないため, それによる言語が世代によりコミュニティよ り変化するものであること, よって言語の融合などの現象が起こることをマル チエージェントの環境で実験するものである. 次の 第5.3.5節 分散診断の問題では, ある程度の規模を持ったシステムを監視しているエー ジェント群が, そのエージェントの持つ局所的な情報と推論知識から全体の故 障原因を診断するシステムを実装する. 分散診断は集中制御による診断に比べてロバス トであると言われる. これは診断系のすべてが完全に動いてなくても相互に情 報を補い合って推論をすることができることによる. 本実験でも, エージェン ト同士が相互に疑い合い, 診断対象の故障と同時に, それを監視しているエー ジェントの故障をも検知するシステムを実現する. この結果エージェント群に よる推論過程は一度否定された推論木が後になって復活したりする非単調性を 実現する. 最後に, 第5.3.6節 で並列オブジェクト指向言語 とマルチエージェントシステムの親和性についてまとめる.



Mitsubishi Research Institute,Inc.
Mon Feb 24 19:32:21 JST 1997